通信・電子技術についての雑学 第1回 dB(デシベル)という単位について 1. はじめに 通信関係の仕事においては、dB(デシベル)という単位をよく使用します。ここでは、この単位の特徴や使うことによってどんなメリットがあるのかなどについて紹介します。 信号を伝送する際に、信号は伝送路を通って伝送されますが、信号の発信端から受信端までの伝送路では、一般的に信号を増幅したり減衰したりする機能が存在します。具体的な例を考えながら、[dB]という単位について説明します。 2. [dB]という単位の定義と使い方 [dB]の定義を理解するために、図1のような増幅回路を例として考えます。 図1 増幅回路の例
次のような条件で動作している図1のような増幅回路があるものとします。
l 増幅器の入力信号電圧: V1 [V] l 増幅器の入力抵抗: R1 [Ω] l 増幅器の負荷抵抗: R2 [Ω] l 増幅器の出力信号電圧: V2 [V]
この回路において、増幅器の入力電力P1と出力電力P2を考えてみます。 入力電力P1は、次のように表わすことができます。
次に出力電力P2は、次のように表わすことができます。
これは、入力対出力の電力比の常用対数の値をとり、これを10倍したものとしてとらえることができます。これが「dB」という単位の定義となります。
<余談> 常用対数、自然対数なんて忘れてしまった方のために 出力対入力の電力比(デシベル)の式 A は、( P 2 / P 1 )の 10 を底とする対数を 10 倍した値ということになります。 さて、(3)式は、入力電力対出力電力の比をとったものですが、P1とP2は、それぞれ であることから、(3)式を書き直すと、次のようになります。
ここで、増幅器の入力抵抗R1と負荷抵抗R2が等しいときは、次のように表すことができます。
(5)式から分かるように、入力抵抗R1と負荷抵抗R2が等しいときは、電力比は電圧比の2乗に比例することが分かります。これが、「デシベルの場合、電力比の場合は 10log、電圧比の場合は 20logをとる。」と言われる根拠です。 この関係から分かるように、伝送路の入出力抵抗(インピーダンス)が等しい場合は、電力のデシベル値と電圧のデシベル値は等しい値になります。
3. なぜ[dB]という単位を使うのか [dB]の概念は前項の説明で概略理解していただけたとして、ここではなぜこのように一見面倒くさい対数計算まで持ち出した単位を使うのかを説明することにします。 [dB]を使わない場合、入出力の電力比、電圧比は[倍]という単位を使うことになります。 例として、図2のような伝送回路を考えます
図2 減衰を含む多段伝送回路の例
この例で考えるとき、[倍]という単位を使って全体の電力増幅度Ar[倍]を求める場合は、各段の増幅度を掛け合わせて次のように計算します。
Ar = 100×(1/5)×10 = 200 [倍]
一方、[dB]を使って全体の電力増幅度Ad[dB]を求める場合は、各段の増幅度[dB]を加算することにより、次のように求めることができます。
Ad = 20+(-7)+10 = 23 [dB] 図2にV1〜V4までの電圧値が示してあります。(電圧の倍数= として求める。) すべての回路の入出力抵抗が等しい条件では、
となり、電圧比が電力比と等しくなることが分かります。 これから分かるように、[dB]を使用することによって、すべて掛け算でなく、加算で計算ができるようになります。また、伝送回路においては、入力対出力の電力比が100[dB]( [倍]=100億倍)にもなることは珍しくなく、掛け算では大変なことが分かります。 以上のような事情から、伝送回路によく使用する増幅器、アッテネータ、同軸ケーブル、電力分配器等々は、カタログ性能として[dB]単位の増幅度、減衰量等が示されています。したがってこの分野では、[dB]を使わないで設計をしたり調整試験をしたりすることが困難なのです。 <第1回終> |